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「双極性障害」増加の背景にもあった製薬会社のマーケティング戦略と、医師による過剰診断・過剰処方

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はじめに

 

うつ病患者が増えた頃、私も心療内科を受診して診断を受けていました。そして、今度は双極Ⅱ型障害。どうやら私は流行に敏感なようです。というのも、長年にわたって繰り返される不調の原因がわからなかった故の行動の結果でした。精神科医が書いた論文を読み、「あ、双極Ⅱ型障害というやつだ」と思ってしまったのです。

 

うつ病を繰り返したり、長引いたりして、なかなかよくならない人の多くが、双極Ⅱ型障害と診断されることになったケースは多いのではないでしょうか。

 

製薬会社のマーケティング戦略と過剰処方

 

「薬に頼らない」井原裕医師の治療を求めて

うつ病患者増加の背景に、製薬会社のマーケティング戦略があったということについては、こちらの記事の通りです。

 

ということは、双極Ⅱ型障害も同じパターンではないだろうかと、薄々感づき始めるようになりました。そんな時に出会ったのが、独協医科大学越谷病院こころの診療科の井原裕医師が書いた「うつの8割に薬は無意味」という本でした。その本を読んだ後、私は受診することになります。先生の治療方針については、病院のホームページを見ていただければわかるかと思いますが、薬に頼らない治療を特徴にしています。先生の考え方には共感しますし、素晴らしいと思って受診したのです。

 

薬は処方されず、生活リズムを整えることから始めました。しかしながら、私の精神状態は思いの外よくなく、思うように就寝することも起床することもできなかったのです。考え方には共感しますが、うつ状態にある人が、いきなり薬なしで生活リズムを整えられるようになるかというと、それはなかなか難しいものでした。「できたらやってるよ」正直、そう思いもしました。記録表をつけて、次回診察で先生に見せるのですが、指導され、自分でもできないことにかえって落ち込み、診察後に泣いてしまったことを覚えています。

 

わかっていても、実行できないときがあります。いまの私であれば、先生の指導通りのことができたのではないかと思います。いまはそのときほどの気分の落ち込みはいですし、決まった時間に起き、筋トレをしたりするということができるようになっているからです。自分が情けなくなって受診をやめてしまったのですが、もっと先生と向き合って、できないことを真剣に相談してみてもよかったのかもしれません。

 

うつ病・躁うつ病患者の増加とSSRIの売り上げ増加

そして今日、その先生が2011年に精神神経学雑誌に寄稿した論文を見つけ、この記事を書くことにしました。タイトルは「双極性障害と疾患喧伝」です。うつ病の増加と疾患啓発についても触れていました。厚生労働省の「患者調査」で、「うつ病・躁うつ病」の総患者数は、1996年に43.3万人、1999年に44.1万人に過ぎなかったのが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、9年間で2.4倍になっていいます。ちなみに、2014年の気分障害患者(うつ病、双極性障害など)の数は、108.7万人でした。

 

患者数増加の時期は、SSRIの登場時期と重なります。高額のSSRIの売り込みのために疾患啓発を行い、保険病名「うつ病」が乱発されました。その結果、抗うつ薬の市場規模は、1998年の145億から2006年には870億に膨れ上がっているのです。

 

最重症うつ以外に効果のないSSRI

その一方で、2008年、2010年に、SSRIについての残念な論文が発表されています。それは、SSRIは最重症うつ病患者以外には、プラセボとの有意差がなかったというものです。精神科医によって効果のない薬が処方され、それを飲んでもなかなか効果が見られない人が多くいたというのは当たり前だったのです。ちなみに、諸外国のガイドラインでは、すでに軽症うつ病では薬物療法を第一選択から外していたそうです。

 

双極性障害と抗精神病薬のマーケティング戦略

 

双極性障害への抗精神病薬の適用拡大

2010年、イーライ・リリー社のジプレキサ(オランザピン)が「双極性障害における躁状態」に適用拡大されました。それとともに、精神科治療学という雑誌に掲載された広告について、井原医師はこのように書いています。

大量の不要の品々を自室に陳列させている女性が登場。「あれもこれも買い過ぎてしまう。性格の問題じゃなかったんだ」とのキャッチコピーが踊っている。ここには、浪費癖のある人をあれもこれも医者にかからせて、双極性障害にしてしまい、薬の処方へと誘導しようという同社の意図がある。

 

井原医師は、イーライ・リリー社に広告を控えることを要望し、広告からこのキャッチコピーが外されることになりました。

 

ちなみに、井原医師の論文が書かれた2011年の翌年には、大塚製薬のエビリファイが「双極性障害における躁状態」に適用拡大されました。エビリファイの売り上げは、2014年12月期にピークとなり、6,542億円という数字をたたき出し、世界有数の薬になったと言われています。大塚製薬の幹部が「世界で大塚といえばエビリファイと認識する人が増えた」と言うほどです。エビリファイは2015年に特許が切れてしまい、大塚製薬はその他の薬でさらに売り上げを上げているようです。

 

精神科医にとっての双極性障害

井原医師は、精神科医として、薬を出す前にやることがあると主張しています。それは、生活習慣の是正です。気分の変動があるのであれば、その背後に必ず生活リズムの変動があるといいます。「完全断酒、週50時間の睡眠、定時に起床」の3点だけでも守ることは、「双極性障害の不安定仮説」に適合し、「対人関係・社会リズム療法」にも通じるものであるとしています。そして、向精神薬による治療は、双極Ⅰ型障害に限定するのはどうかと提案していました。

 

おわりに

 

今回、私は製薬会社や精神科医を批判したいわけではありません。彼らは皆、自分たちの仕事をしているだけだと思っています。ただ、私たちが診断を受け、薬を処方されているとき、その背景にあるものは知っておいた方がよいのではないかと思うのです。私たちには選択する権利があります。自分が受けたい治療について、考え直す機会になれば幸いです。

 

短期間ではありましたが、井原医師の治療を経験した私としては、すべての人がすぐに生活リズムを改められるものではないだろうと思いました。しかし、一方で薬で治すことの限界を感じており、薬に頼らず症状を改善していく取り組みが必要だとも思っています。このブログで紹介しているような個人的取り組みは、そう考えて行っていることの一部ですが、自分自身としては徐々に効果が現われているように感じています。

 

難しいからこそ、多くの人が苦しんでいるわけですが、だからこそ今後も薬に代わる取り組みや考え方を模索し、皆さんに共有できればと考えています。